大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12855号 判決 1999年3月25日

大阪市東成区東今里三丁目一〇番二八号

原告

林一二株式会社

右代表者代表取締役

林一良

右訴訟代理人弁護士

村尾勝利

福岡県久留米市東櫛原町猿楽田一八二一番地

被告

丸永製菓株式会社

右代表者代表取締役

永渕俊毅

右訴訟代理人弁護士

美勢克彦

右補佐人弁理士

梶原克彦

主文

一  被告は、その取り扱うラクトアイスの包装用袋に別紙標章目録三記載の標章を付し、又はその包装用袋に右標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。

二  被告は、その取り扱うラクトアイスに関する広告に別紙標章目録三記載の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。

三  被告は、別紙標章目録三記載の標章を付したその取り扱うラクトアイスの包装用袋及び広告を廃棄せよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  被告は、その取り扱う氷菓及びラクトアイスの容器及び包装用袋に別紙標章目録一ないし三記載の標章を付し、又はその容器及び包装用袋に右標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。

2  被告は、その取り扱う氷菓及びラクトアイスに関する広告に別紙標章目録一ないし三記載の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。

3  被告は、別紙標章目録一ないし三記載の標章を付したその取り扱う氷菓及びラクトアイスの容器、包装用袋及び広告を廃棄せよ。

4  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事実関係(各項掲記のもののほか、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。)

1  原告は、(一)の商標権(以下、その登録商標を「本件登録商標」という。)につき、(二)のとおり専用使用権の設定を受け、現在、(三)のとおり専用使用権の設定を受け、登録を了している(甲一、二、四二ないし四五)。

(一) 登録番号 第七七八四一六号

出願日 昭和三三年七月二二日(商願昭三三・二〇六七七号)

公告日 昭和四二年一一月九日(商公昭四二・三五四九五号)

登録日 昭和四三年四月一七日

更新登録日 昭和六三年五月二五日

同 平成一〇年四月一三日

指定商品 (旧)第四三類(菓子及びパン)

登録商標 別添登録商標目録記載のとおり

(二) 受付年月日 平成六年二月一六日

受付番号 〇〇一二七七

原因 平成五年一二月二二日契約

範囲 地域 日本全国

期間 平成六年一月一日から平成一〇年一月一日まで

内容 使用商品 アイスクリーム、氷菓

(三) 受付年月日 平成一〇年一月二六日

受付番号 〇〇〇八二六

原因 平成一〇年一月二日契約

範囲 地域 日本全国

期間 平成一〇年一月二日から平成一四年一月一日まで

内容 使用商品 アイスクリーム類、氷菓

2  被告は、単価二八〇円のカップ入り氷菓(検乙一。以下「被告商品1」という。)、単価一〇〇円のカップ入り氷菓(検乙二。以下「被告商品2」という。)及び単価一〇〇円のバー状のラクトアイス(検乙三。以下「被告商品3」という。)を販売し、また、これら商品の宣伝広告用パンフレットを頒布している。

原告は、被告が被告商品1に別紙標章目録一の標章(以下「標章一」という。)を、被告商品2に別紙標章目録二記載の標章(以下「標章二」という。)を、被告商品3に別紙標章目録三記載の標章(以下「標章三」といい、標章一、標章二、標章三を総称して「イ号標章」という。)をそれぞれ付していると主張する。

これに対して、被告は、被告が使用している標章は、「Marunaga 九州名物 しろくま」「Marunaga 九州名物 シロクマ」「Marunaga 九州名物 白くま SHIROKUMA」「マルナガ 白熊」である(以下、総称して「被告標章」という。)と主張してイ号標章の使用を否認するとともに、被告標章は本件登録商標に類似しないと主張する。

3  原告の請求

原告は、氷菓又はラクトアイスは本件登録商標の指定商品であるから、被告がその製造する氷菓を入れた容器に標章一又は二を、バー状のラクトアイスを包装した包装用袋に標章三をそれぞれ付して販売することは、原告の有する専用使用権を侵害すると主張して、イ号標章を付した容器及び包装用袋の使用及び広告の差止め、これらの廃棄並びに損害賠償として金一〇〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年一二月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

二  争点

1  被告はイ号標章を使用しているか。イ号標章は本件登録商標に類似しているか。

2  イ号標章は、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標又は慣用商標といえるか。

3  被告が原告に対して、損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告はイ号標章を使用しているか。イ号標章は本件登録商標に類似しているか)について

【原告の主張】

1 被告は、イ号標章を使用しており、イ号標章を本件登録商標と対比すると、称呼及び観念が同一であるから、イ号標章は、本件登録商標に類似している。

2 被告は、被告標章を使用しているのであってイ号標章を使用していないし、被告標章を本件登録商標と対比すると、称呼及び観念が異なるから被告標章は本件登録商標に類似していないと主張する。

しかしながら、被告標章は、いずれも一体不可分の一個の標章とはいえない。「しろくま」「シロクマ」「白くま SHIROKUMA」「白熊」はそれぞれ独立の商標として使用されているのであるから、被告は、イ号標章を使用しているものである。

また、仮に、被告標章が結合商標として一個の商標であるとしても、各単語の文字の大きさ、色、字体等の点で、「しろくま」「シロクマ」「白くま SHIROKUMA」「白熊」の部分が常に一般顧客の注意を惹くように配慮されており、一方、「Marunaga」の部分は製造業者を示し、「九州名物」の部分は商標に付記又は装飾された文字であるから、商標の要部は、「しろくま」「シロクマ」「白くま SHIROKUMA」「白熊」の部分にある。したがって、被告標章は、その要部が本件登録商標と称呼及び観念が同一であるから、本件登録商標と類似している。

【被告の主張】

被告は、被告標章を使用しているのであって、イ号標章を使用していない。

また、仮に被告が使用しているのがイ号標章であると判断されたとしても、そもそも本件登録商標からは「しろくま」との称呼も、「白熊」との観念も生じないから、イ号標章は本件登録商標に類似しない。

二  争点2(イ号標章は、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標又は慣用商標といえるか)について

【被告の主張】

1 『しろくま』は、鹿児島県に始まり、九州地方、更に現在では日本全国において、フルーツを入れた(のせた)練乳入り(がけ)の氷菓(かき氷)の普通名称又は慣用商標である。そして、商品の普通名称又は慣用商標であるためには、一地方において一定の商品について需要者、業者間に使用されているもので足りる。したがって、被告標章(イ号標章)は、商標法二六条一項にいう、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標(二号)又は慣用商標(四号)に当たるから本件商標権の効力は及ばず、原告が本件専用使用権に基づき使用の差止、廃棄及び損害賠償を求めることはできない。

2 原告の主張1については、確かに、商標法における「商品」であるか否かが問題となることがあるが、これは、そもそも当該対象物に対し、商標権の効力が及ぶかとか、当該対象物について標章が付されているのが商標の使用に当たるかにつき議論となる場合であって、本件のように、普通名称あるいは慣用商標か否かとは関係ない。

3 原告の主張2については、もともと『しろくま』は、鹿児島市内のある店舗で、フルーツ等をのせた練乳がけのかき氷の名称として使用されていたところ、徐々に他の店舗においてもフルーツ等をのせた練乳がけのかき氷を『しろくま』の名称で提供するようになり、鹿児島県内の一般消費者の間で、『しろくま』は普通名称ないし慣用商標として使用されるようになった。その後、かき氷の人気が高くなりつつあったことから、氷菓・アイスクリーム製造販売業者が、フルーツ等を入れた練乳入りの氷菓に『しろくま』の名称を使用するようになり、フルーツ等を入れた練乳入りの氷菓の普通名称ないし慣用商標としても『しろくま』が使用されるようになったのである。このような経緯からして、かき氷と氷菓とを区別するのは相当でない。

4 原告の主張3については、ラクトアイスと氷菓とは乳固形分の量が違うのみであって、「バー」「カップ」「コーン」の形態と関連性はなく、どの形態をとるかによって種類が決まるものでもなく、また、形態によって製法等が異なることもない。しかも、現実には、乳固形分が三%以上であって、本来ラクトアイスであるものに氷片を入れて氷菓とすることもあれば、カップ入りの氷菓と表示してはいるものの、氷を掻くことなくシロップを入れて凍らせたものもあるのである。したがって、ラクトアイスか氷菓かを問わず、付されている『しろくま』は普通名称である。

【原告の主張】

1 商標法における「商品」とは、同質のものを多数供給することが可能であり、代替性があることを要するが、代替性があっても流通性がないもの、例えば、飲食店等で供給される料理等は商品ではない。被告は、鹿児島県を中心として、喫茶店やレストラン等の飲食店においてフルーツ等を入れた(のせた)練乳入り(がけ)のかき氷が『しろくま』の名称で提供されていることを主張立証するが、これはまさに料理の一種であるから、商標法にいう「商品」ではない。喫茶店等の飲食店で提供される料理等には商標権は及ばないので、商標権の及ばない飲食店における飲食物についての名称使用と、商品についての商標使用とは明確に区別し認識される。仮に飲食店で提供されるフルーツ等を入れた(のせた)練乳入り(がけ)のかき氷の名称として『しろくま』が普通名称となっていたとしても、フルーツ等を入れた練乳入りのカップ入りミゾレやアイスキャンディーの名称としても、そのまま当然に普通名称化しているとはいえない。したがって、本件において、鹿児島県を中心として、喫茶店やレストラン等の飲食店においてフルーツ等を入れた(のせた)練乳入り(がけ)のかき氷が『しろくま』の名称で提供されていることを主張立証したからといって、イ号標章(被告標章)が普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標であることを主張立証したことにはならない。

2 慣用商標といえるためには、特定商品の製造販売業者によって、慣用的に使用されていなければならない。そして、「氷菓」の製造販売業者に喫茶店やレストラン等の飲食店が含まれないことは明らかであるところ、本件において、被告が鹿児島県内の氷菓の製造販売業者としていかなる範囲の業者又は業界を前提としているのか不明であり、その意味で、鹿児島県内において『しろくま』が慣用商標になっているとの主張自体が失当である。

また、九州一円において、複数の業者が『しろくま』を使用していることは認められるものの、慣用的に使用されているというためには、当業界において長期間にわたり反復継続して使用されてきたことが必要である。しかし、被告が挙げる全証拠によってもそのような事実を認めることはできない。かえって、被告を除く九州地方における製造販売業者は、原告が『しろくま』の使用中止を申し入れたのに対し、使用の中止又は原告の提示する条件による使用承諾を得たのであり、慣用商標であることを主張した者はいなかった。

3 仮に、飲食店等がフルーツ等を入れた練乳入りのかき氷を『しろくま』の名称で提供してきたことから、特定の商品であるフルーツ等を入れた練乳入りの氷菓についても『しろくま』が普通名称となったとしても、もともと鹿児島市内の飲食店が練乳をかけてかき氷に干しぶどう、チェリー、アンゼリカをのせたものを考案し、その形態が白熊の顔に似ていたことから「白熊」と名付けて売り出し、他店が追随したことからフルーツ入りの練乳がけのかき氷を『しろくま』と呼ぶようになったというのが経緯である。このことからすると、『しろくま』の名称から一般的に認識される商品は、右特徴を有すること、すなわち、<1>かき氷であること、<2>フルーツ入りの練乳がけであること、<3>受け皿に盛られていることの三点の特徴を有することを前提とするというべきである。そして、商品の種類から見た場合、アイスクリーム、アイスミルク又はラクトアイスは生乳、牛乳若しくは特別牛乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料として凍結したもので、乳固形分三・〇%以上を含むものをいい、氷菓はそれ以外のものをいうと定義されている。このような成分の差に基づく商品の種類の差異は、一般消費者にも容易に識別できるし、アイスキャンディー等バー状のものをはじめとしてカップ入り以外のものの場合、「受け皿に盛られた」ために白熊の顔に似ているという基本的特徴を具備していないし、また、従前、飲食店において「受け皿に盛られた」以外の形状のものは全く存在しなかった。したがって、『しろくま』が普通名称化している商品は、カップ入りのフルーツ入り練乳がけ氷菓のみを指すというべきである。

三  争点3(被告が原告に対して、損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について

【原告の主張】

1 被告は、平成六年一月一日から平成八年九月三〇日までの間、イ号標章を付したカップ入りの氷菓(被告商品1及び2)を、少なくとも単価二八〇円のものを五〇万個、単価一〇〇円のものを九〇万個販売し、利益率二〇%として、少なくとも四六〇〇万円の粗利益を上げた。よって、商標法三八条一項により、右利益をもって原告が被った損害の額と推定でき、被告は損害賠償として内金一〇〇〇万円の支払義務がある。なお、被告商品3の販売に係る損害については、請求の対象としない。

2 仮に、右1の金額が認められないとしても、原告は、商標法三八条二項に基づき、本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する金銭を損害賠償として請求する。右金銭の額は、専用使用権設定契約において、本件登録商標の使用の対価として定められた一年当たり金三〇万円を下回ることはなく、平成六年一月一日から平成一〇年四月一七日までの間の分として、金一二八万七一二三円である。

【被告の主張】

1(一) 原告が、自社のフルーツ等を入れた練乳入の氷菓に付しているのは「うわさの白クマ」及び「うわさの白くまアイス フルーツ入りバー」であって、本件登録商標ではない。このように、原告は、本件登録商標を使用していないのであるから、商標法三八条一項の適用の余地はない。

(二) 被告が、平成六年一月一日から平成八年九月三〇日までの間、単価二八〇円の商品を少なくとも五〇万個販売したとの主張は認めるが、同期間中、単価一〇〇円のカップ入りの商品を少なくとも九〇万個販売したとの主張は否認する。

また、粗利益が二〇%であるとの主張は否認する。一〇〇円単価の商品の場合、工場出荷価格が五〇円程度、更に卸売り及び小売りに対してリベートを出すのであるから、実際に被告が得るのは五〇円以下であり、このことは単価二八〇円の商品でも同じである。

2 原告は、商標法三八条二項に基づく損害賠償請求も追加して主張しているが、専用使用権の設定登録日は、平成六年四月一一日であるから、同年一月一日を起算日とする請求は法的根拠を欠く。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(被告はイ号標章を使用しているか。イ号標章は本件登録商標に類似しているか)について

1  甲第一号証によれば、原告が専用使用権の設定を受けている本件登録商標は、別紙登録商標目録記載のとおりで、「しろくま」との称呼及び「シロクマ(白熊)」(ホッキョクグマ=北極熊の別名)の観念を生じる。

2(一)  検乙第一号証によれば、被告商品1の容器の蓋及び容器本体の側面に、字は赤色でその周囲を白色で塗った「Marunaga」、それよりもやや大きく、字は青色でその周囲を白色で塗った「九州名物」、更に大きく、字は白色で赤色で縁取りをした「しろくま」と動物の白熊らしきものが印刷されていることが認められる。

被告は、「Marunaga 九州名物 しろくま」でもって一つの商標であると主張するが、右のとおり、「Marunaga」、「九州名物」、「しろくま」でそれぞれ字の色及び大きさが異なること、「Marunaga」と「九州名物」は、その周囲を白色で塗った点で同じであるのに対して、「しろくま」は赤色で縁取りをしており、字の装飾が異なることからすると、「Marunaga」、「九州名物」、「しろくま」が一体になっていると解することはできない。そして、「Marunaga」というのは被告の表示、「九州名物」というのは、単なるキャッチフレーズであるから、結局、「しろくま」の部分で独立した標章ということができる。

したがって、被告は、その製造する氷菓を入れた容器に標章一を付して、氷菓を販売しているといえる。

(二)  そして、標章一は、別紙標章目録一記載のとおりで、『しろくま』という称呼及び『シロクマ(白熊)』(ホッキョクグマ=北極熊の別名)の観念を生じるところ、本件登録商標と称呼及び観念が一致しているから、標章一は、本件登録商標に類似しているというべきである。

3(一)  検乙第二号証によれば、被告商品2の容器の蓋には、青字で「マルナガ」、ほぼ四倍角の大きさの青字で「白熊」と印刷されていることが認められる。

被告は、「マルナガ 白熊」をもって一つの標章であると主張するが、「マルナガ」「白熊」は字の色が同じものの「白熊」が「マルナガ」のほぼ四倍角の大きさであることからみて、これらが一体となっていると解することはできない。そして、「マルナガ」というのは被告の表示であるから、結局、「白熊」の部分で独立した標章ということができる。

したがって、被告は、その製造する氷菓を入れた容器に標章二を付して、氷菓を販売しているといえる。

(二)  そして、標章二は、別紙標章目録二記載のとおりで、『しろくま』という称呼及び『シロクマ(白熊)』(ホッキョクグマ=北極熊の別名)の観念を生じるところ本件登録商標と称呼及び観念が一致しているから、標章二は、本件登録商標に類似しているというべきである。

4(一)  検乙第三号証によれば、被告商品3の包装用袋には、字は赤色でその周囲を白色で塗った「Marunaga」、それよりやや大きく、青地に白色で「九州名物」、更に大きく、白地に赤色で「白くま」、小さく、青色で「SHIROKUMA」と印刷されていることが認められる。

被告は、「Marunaga 九州名物 白くま SHIROKUMA」をもって一つの商標であると主張するが、右のとおり、「Marunaga」と「白くま」とは赤色、「九州名物」は白色、「SHIROKUMA」は青色でそれぞれ字の色が異なり、「Marunaga」、「九州名物」、「白くま」、「SHIROKUMA」はそれぞれ字の大きさが異なること、「Marunaga」、「九州名物」には装飾があるのに対して、「白くま」「SHIROKUMA」には装飾がないことからみて、「白くま」と「SHIROKUMA」とは一体となっているといえるものの、「Marunaga」、「九州名物」とはそれぞれ別であって、これらが一体になっていると解することはできない。そして、「Maruaga」というのは被告の表示、「九州名物」というのはキャッチフレーズということができるのであるから、結局、「白くま 「SHIROKUMA」の部分で独立した標章ということができる。

したがって、被告は、その製造する氷菓を包装した包装用袋に、標章三を付して、ラクトアイスを販売しているといえる。

(二)  そして、標章三は、別紙標章目録三記載のとおりで、「しろくま」という称呼及び「シロクマ(白熊)」(ホッキョクグマ=北極熊の別名)の観念を生じるところ、本件登録商標と称呼及び観念が一致しているから、標章三は、本件登録商標に類似しているということができる。

5  以上のとおりであるから、被告は、その製造する氷菓を入れた容器又はラクトアイスを包装した包装用袋にイ号標章を使用しており、しかも、イ号標章は、本件登録商標に類似しているということができる。

二  争点2(イ号標章は、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標又は慣用商標といえるか)について

1  右一で検討したとおり、被告は、イ号標章を使用しており、かつ、イ号標章は本件登録商標に類似しているところ、被告は、『しろくま』とは、かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたものを意味する普通名称であり、イ号標章は、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標又は慣用商標であるから、商標権の効力は及ばないと主張する。

2  そこでまず、『しろくま』の普通名称性について検討する。

(一) 後掲各証拠には、『しろくま』について、次のように紹介されている。

(1) 「鹿児島で白熊といえばミルク味のかき氷のこと。真っ白いかき氷にいろいろなフルーツを飾ったら、白熊に似たところから名付けられた」(乙三の2〔「るるぶ鹿児島」というガイドブック〕)

(2) 「白熊メニュー」の解説として、「ミルクたっぷりの氷の中にいろんなフルーツをちりばめた鹿児島県民お馴染みのかき氷・白熊」(乙三の3〔同〕)

(3) 「しろくま」のタイトルの下に、「かき氷にミルクシロップをたっぷりかけて、フルーツでデコレーションしたもの。市内喫茶店でどうぞ」(乙四の2〔「九州沖縄パーフェクトガイド」というガイドブック〕)

(二) 右に加え、証拠(乙一ないし八、六六ないし六九、七二ないし七四、七九ないし一〇〇。なお、各書証の枝番号については、枝番号を付した書証すべてを引用するので省略。以下、同じ。)を併せば、鹿児島県を中心とした九州地方では、広く一般に、かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたものを『しろくま』と呼んでいることが認められ、『しろくま』というのは、鹿児島県を中心にした九州地方において、かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたものを意味する普通名称であると認めるのが相当である。そして、商標法二六条一項二号でいう「普通名称」というのは、日本全国において通用することは必要でなく、一地方において普通名称となっていれば足りるというべきである。

もっとも、(一)で引用した紹介では、すべて喫茶店等の飲食店において提供される飲食物として紹介されており、その他の証拠においても、ほぼすべてが同様の前提で記載されている。

他方、証拠(検乙一ないし三)によれば、被告商品1の容器には、「種類別 氷菓」「原材料 糖類、砂糖、ぶどう糖果糖液糖、乳製品、パイン果肉、ゼリー、黄桃果肉、大納言納豆、安定剤(増粘多糖類)、乳化剤、香料、着色料、(赤キャベツ、紅花黄)」と印刷されていること、被告商品2の容器には、「氷菓」「原材料 糖類(砂糖、ぶどう糖果糖液糖、水飴)、乳製品、みかん果肉、小豆納豆、ペクチンゼリー、安定剤(増粘多糖類)、香料、乳化剤、食塩、着色料(赤キャベツ、紅花黄)」と印刷されていること、被告商品3の包装用袋には、「種類別 ラクトアイス」「原材料 砂糖、練乳、牛乳、生クリーム、黄桃、パイン、あずき納豆、香料、安定剤(増粘多糖類)、無着色」と印刷されていることが認められる。このように、被告商品1ないし3には、いずれもパイン果肉、黄桃果肉、みかん果肉、大納言納豆、あずき納豆といったフルーツやあずきが入っているものの、飲食店で提供されるものではない流通型商品であり、しかも、その種別について氷菓又はラクトアイスと表示されている。そこで、右のとおり、『しろくま』とは、かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたものの普通名称であるとしても、さらに「氷菓」や「ラクトアイス」についても普通名称といえるかが問題となる。

(三) そもそも商標法二六条が、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標や慣用商標につき商標権の効力が及ばないとしているのは、商品や役務を示す一般的名称として通用すべきものあるいは現に通用しているものの場合には、その商標にはもはや自他商品識別力がないばかりか、その使用を商標権者に独占させると、取引に支障を来す等の弊害が予想されるからである。ところで、本件において『しろくま』の一般名称で呼ばれる対象物は、「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」であるが、その対象物が、喫茶店等の飲食店において提供される飲食物を主としていることは、前掲各証拠から明らかである。しかし、世上、飲食店において提供される飲食物を流通型商品に加工して販売することは、本件のようなかき氷に限らず、種々の飲食物において見られるところであり、そのような場合には、流通型加工商品も、元となった飲食物の性質を備えている同一物又は代用物と観念される限り、飲食物と同じ一般名称で呼ばれるのが通常である。したがって、本件でも、被告商品が、喫茶店等において提供される「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」の同一物又は代用物と観念される場合には、『しろくま』は、なお、被告商品についても普通名称であるというに妨げないというべきである。

しかるところ、甲第四七号証及び乙第六五号証によれば、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和二六年一二月二七日厚生省令第五二号)及び「食品、添加物等の規格基準」(昭和三四年一二月二八日厚生省告示第三七〇号)により、「アイスクリーム類」とは、生乳、牛乳若しくは特別牛乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し又は主要原料として凍結したものであって、乳固形分三・〇%以上を含むもの(はっ酵乳を除く)をいい、このうち、乳固形分一五・〇%以上、うち乳脂肪分八・〇%以上のものを「アイスクリーム」、乳固形分一〇・〇%以上、うち乳脂肪分三・〇%以上のものを「アイスミルク」、乳固形分三・〇%以上のものを「ラクトアイス」といい、これら以外のものが「氷菓」と定義されていることが認められる。右定義によれば、「氷菓」と「ラクトアイス」を含む「アイスクリーム類」とは、もともと乳固形分の含有率の違いにより区別されているにすぎない。しかしながら、乳固形分の含有率が小さいほど、冷涼感が大きく、食感もかき氷に近く、逆に乳固形分の含有率が大きいほど、冷涼感は小さく、食感もクリームに近くなるなど、乳固形分の含有率によって、冷涼感、食感等が異なるのが通常であり、また、「アイスクリーム」や「ラクトアイス」と「氷菓」とでは語句からのイメージも異なって受け取られるのが一般的であると考えられるから、一般消費者は、「ラクトアイス」を含む「アイスクリーム類」と「氷菓」とは違う食品であると理解しているとみるのが合理的である(被告は、乳固形分の含有率からすると「ラクトアイス」であるものであっても、冷涼感を出すため、氷片を入れて「氷菓」と表示することがある旨主張するが、このことは、まさに、「ラクトアイス」と「氷菓」では冷涼感が異なり、一般消費者が両者を区別していることの現れというべきである。)。したがって、「氷菓」と「ラクトアイス」とは、商品として明確に区別されているというのが相当である。

一方、『しろくま』は、練乳がかけられているとはいえ、かき氷を元とし、しかも、そのことを消費者が認識している以上、冷涼感や食感は、「氷」である。そして、「氷菓」と「ラクトアイス」とを比較すると、乳固形分の含有率が小さいため、冷涼感が大きく、食感が「氷」により近く、また、そのイメージも「氷」により近いのは「氷菓」である。このように、一般には、「氷菓」については「かき氷」の延長にある代用物と認識されているとみるのが合理的であるが、「ラクトアイス」については、「かき氷」の代用物と認識されているとはいえない。

よって、被告商品1及び2のようなカップに入った練乳入りの氷菓は、練乳がけのかき氷と同種のものと一般消費者は理解しているとみることができるが、これに対して、被告商品3のようなバー状のラクトアイスは、練乳がけのかき氷と同種のものと一般消費者が理解しているとみるのは困難である。

この点について、被告は、「ラクトアイス」と「氷菓」は、それに含まれている乳固形分の量に違いがあるだけで、製法等において何ら異なるものではないから、両者を区別すべきではないと主張する。しかし、ある名称が普通名称として通用しているか否かを判断するに当たっては、製法が共通か否かということは直接の関係はなく、一般社会においてどのような認識が通用しているかによって判断すべきものであるから、被告の主張は採用できない。

また、被告は、多数の業者が『しろくま』の商品名でラクトアイスの商品を販売している点を指摘するが、前記のように『しろくま』の名称で呼ばれているものは「かき氷」である以上、被告指摘の事情があるにせよ、「かき氷」の代用物と観念させないものについてまで『しろくま』が一般的な名称として社会的に認識されているとはいえない。

(四) 右のとおり、被告商品1及び2のような氷菓については、『しろくま』はなお普通名称というべきであり、しかも、標章一及び二は、特殊な字体、装飾文字により表示したものとはいえない。したがって、標章一及び二は、いずれも普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標であると認めるを要する。証拠(乙九ないし六四)によれば、別表記載のとおり、被告は、昭和五六年以降(但し、昭和五八年、同六二年、平成七年を除く)、ロイヤル食品は、平成二年から六年まで、セイカ食品は、昭和五七年、同六三年、平成二年から同六年、同八年、弘乳社は、平成二年、同四年から同六年、八年、宮崎アイスクリームは、平成三年、名糖産業は、昭和五八年、平成三年、同四年、同六年、松尾製菓は、昭和五七年、同五九年、平成二年から同九年、オハヨー乳業は、平成六年、糧友食品は、昭和五七年、全酪新世乳業は、昭和五九年、平成元年、同二年、同五年から八年に、カップ入りの氷菓やバー状のラクトアイスに「白くま」「白熊」等の商品名を付した商品の広告をしていたことが認められ、右の事実からすれば、この期間中、これらのメーカーが「白くま」「白熊」等の商品名を付した商品を製造販売していたことが推認される。のが相当である。

よって、被告商品1に標章一を、被告商品2に標章二を付して販売していることについては、商標法二六条一項二号の適用があるから、本件商標権の効力は及ばず、原告が本件専用使用権に基づき被告標章一及び二につきその使用の差止め、廃棄及び損害賠償を求める請求は理由がない。

原告は、鹿児島県を中心として、喫茶店やレストラン等の飲食店においてフルーツ等を入れた(のせた)練乳入り(がけ)のかき氷が『しろくま』の名称で提供されていることを主張立証しても、これは料理の一種であり、商標法にいう「商品」ではないから、練乳入りのカップ入りミゾレやアイスキャンディーの名称として普通名称化しているとはいえない旨主張する。しかしながら、商標法において「商品」の概念は、もともと商標が自他識別機能を持つものであることから、流通するものに付すことを前提にしているので、商標の登録要件や商標権の効力の及ぶ範囲が問題となる場面において問題となるのである。したがって、普通名称であるか否かを判断するにあたり、語源となるものが商標法にいう「商品」であることは必ずしも要求されていないというべきであり、原告の主張は採用できない。

3  右2のとおり、ラクトアイスである被告商品3については、もはや『しろくま』は普通名称であるとはいい難い。そこで、標章三が慣用商標であるかについて検討する。

慣用商標であるというためには、当該商標を付した商品が、不特定多数の業者によって、相当の期間、相当の数量、反復継続して販売されてきたこと

これらの認定からすれば、『しろくま』の商品名を付して「氷菓」や「ラクトアイス」を販売していた業者は、昭和五六年に一社であったのが、昭和六〇年には六社となり、平成二年には一〇社と、年を追って増加していったことが認あられる。

しかし、後記のとおり、九州地方においてアイスクリームの製造販売をしているメーカーは、九州に本拠地を置くものだけでも一二社あり、算入メーカーも含めると二七社になるところ、これと比較すると、右のように、『しろくま』の商品名を使用しているアイスクリーム業者の数は必ずしも多数とはいえず、業者数との関係も踏まえれば期間も長期とはいい難い。しかも、これらの業者がいつから『しろくま』の商品名をラクトアイスに使用していたのか判然としない上、その販売数量も明らかでない。さらに、証拠(甲三、二〇ないし二六、乙六六ないし六八、七九ないし一〇〇、証人佐々木広充及び同森直朗の各証言)によれば、九州地方においてアイスクリームの製造販売をしているメーカーは、九州地方に本拠地をおくものだけでも一二社あり、参入メーカーも含むと二七社にもなるところ、これらのメーカーは平成六年三月末ころに、原告から専用使用権を侵害する旨の警告を受けて使用を中止し又は原告が提示した条件下において使用を続けることの許諾を受けたこと、右原告からの警告に対して、被告を除き『しろくま』が慣用商標である旨の主張をしたメーカーはないことが認められ、これらの事実を考慮すると、『しろくま』が、バー状のラクトアイスに付され、これが相当の期間、相当の数量、反復継続して販売されてきたことから慣用商標になっていると認めることはできない。

よって、被告商品3に付されている標章三が慣用商標であると認めることはできず、被告商品3の包装用袋に標章三を付して販売することは、本件商標権を侵害し、専用使用権に基づきその使用の差止め及び廃棄を求める原告の請求は理由がある。

三  原告は、被告商品3については、損害賠償請求の対象としていないから、争点3について判断する必要をみない。

第五  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は、被告に対し、被告商品3の包装用袋に標章三を使用することの差止め及びその廃棄を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、主文のとおり

判決する(なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。)。

(平成一〇年一二月二二日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 瀬戸啓子)

登録商標目録

<省略>

標章目録一

<省略>

標章目録二

<省略>

標章目録三

<省略>

別表

被告 ロイヤル食品 セイカ食品 弘乳社 宮崎アイスクリーム 名糖産業 松尾製菓 オハヨー乳業 糧友食品 全酩新世乳業

昭和56年 ○

57年 ○ ○ ○ ○

58年 ○

59年 ○ ○ ○

60年 ○

61年 ○

62年

63年 ○ ○

平成元年 ○ ○

2年 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

3年 ○ ○ ○ ○ ○

4年 ○ ○ ○ ○ ○ ○

5年 ○ ○ ○ ○ ○

6年 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

7年 ○ ○

8年 ○ ○ ○ ○ ○

9年 ○

10年

乙9ないし64を年順に整理。

各欄の○印は、『しろくま』を付した商品を掲載した広告がある年。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例